『習作〜夏〜』




大学1年生。
子どもと社会人の狭間で暮らす、気楽で生温い立場……でも実際は、気まずくて不安定な足場の上に俺たちは立っている。
まぁ、それはともかく。
俺は今年で19歳になる。
夏生まれのくせに(という言い方は好ましくないが)、俺は色が白い。
これでも昔は、水泳が得意な色黒少年だったんだが。
日光を避けるような生活を5年続けた結果が、コレだ。
仕方ないとはいえ、『不健康』とまで言われれば腹も立つ。

――畜生。



俺には、7歳年上の兄貴がいる。
彫りの深い奇麗な顔で、スポーツ万能な、目の上のたんこぶみたいな野郎だ。
いや、そのものだ。
日に焼けた肌の色が、余計に俺の劣等感を煽る。

俺は、世間的に見れば、元生徒会長の優等生だ。
でも、そんな俺にだって劣等感くらいはあるワケで。
“体が丈夫じゃないコト”が、俺の劣等感。
今も、授業に支障がない程度になら運動はできる。
それでも。
俺の身体は、弱い。



中学時代。
2年になるまで、俺は将来を嘱望された水泳選手だった。
泳いでる間は嫌なコトも忘れられたし、純粋に楽しかった。
でも。
そんな日は、突然消えた。
部活から帰る途中の俺に、軽トラックが突っ込んできたのだ。
宙を舞った俺の身体は、重力に呑まれてアスファルトに叩きつけられた。

――致命的だった。

両足の骨折と、脳内出血。
水泳に欠かせない【脚】は、リハビリ次第でどうにかなるものだったし、実際ほぼ元通りに回復した。
ただ、脳の方はどうしようもなかった。
入院中から、俺は妙な発作に襲われるようになった。
意識の消失と、体の痙攣。
診断名は『てんかん』だった。
冗談混じりに少しだけ飲む酒も、徹夜で仲間と遊ぶのも――水泳も。
全部、あの一瞬で、消えた。

耐えられなかった。
親、クラスメイト、部活仲間、コーチ。
みんな、俺に対して哀れみの視線しか向けなくなった。
それが嫌で、俺は勉強と写真に打ち込んだ。
俺には、まだ出来るモノ……可能性があるんだ、と知らしめてやりたい一心で。
努力の甲斐あって、勉強も写真も、成績は全国でもトップクラスになった。
生徒会にも入って、色々やった。
きっと、周囲からは完全に立ち直って見えた筈だ。
でも。
俺は、虚しさから逃れられなかった。



結局、俺は今も、その虚しさから抜け出しきれていない。
ただ、1つだけ変わったコトがある。
絶対に近づくまい、と思っていた水泳に、俺はまた関わるようになった。
恋人(念のために言っておくと女)に勧められて、始めたバイト。
――水泳の指導員。

『いつまでも逃げてたら、時間だって傷を治しようがないでしょ!』

この一言が、深く心に刺さった。
もちろん、主治医の許可も取った。
万が一の事態に備えて、恋人がすぐ傍に控えている状態ではあるけど、もう一度水泳に関われると思うと、顔がにやける。



まだ、この先がどうなるかは分からない。
でもいつか、虚しさから解放される日が来る。

そう信じられるようになった俺は、あれから少しでも成長したのだろうか――




comment
 ≫青春系……と言えなくもない、かなぁ。
  実体験(水泳関係&てんかん)とフィクション(事故)を混ぜて、並べ替えてみただけの擬似私小説だったりします。