『習作〜秋〜』
照りつける太陽が去って。
空気が澄んで、空が高くなって。
早朝と夜は、吐息で世界が白く滲む。
僕が生まれたのは、そんな季節だ。
僕の名前は、空野亜葵。
亜葵と書いて、“あき”と読む。
四人兄弟の三番目で、名前の通り秋に生まれた。
長男は葉流と書いて“はる”、次男は凪告と書いて“なつ”、妹は柚樹と書いて“ゆき”と読む。
生まれた季節に合わせて、変わった字を組み合わせて付けられている。
そう。
どうやったのか分からないけど、僕らは見事に別々の季節に生まれた。
もっとも、性格は季節のイメージに沿ったものにはならなかったんだけど。
「ぼーっとしてると、バスに乗れねえぞ」
「もうちょっと、待って」
「ったく……」
文句を言いながらも待ってくれているのは、親友の安芸司音。
小学校に入ったときに知り合ったから、もう10年くらいの付き合いになる。
「んー……もう良いや、ありがと」
「気に入った画、撮れたか?」
「なんとも言えないなぁ」
「ま、そんなもんか」
「ごめんね、待たせて」
「別に良いよ、もう慣れてるから」
僕が画に魅せられたのは、中学2年の頃。
司音は、その頃から撮影に付き合ってくれる。
お年玉で買ったデジカメとビデオカメラを担いで、二人で色んな所へ行った。
海も、山も、田舎も、都会も。
僕が好きなのは風景だから、自然と都会からは遠ざかって行ったけど。
お詫びに、缶コーヒーをおごる。
これも、昔からの習慣。
ミルクも砂糖も入ってたコーヒーが、今では無糖になったけど。
「編集、どうすんの?」
「取り敢えず、PCに取り込んでみないと分かんないなぁ」
「コンテストは?」
「あんまり無いんだよね、高校生で風景写真のコンテストって」
そう。
僕が知る限り、高校生を対象にした風景写真のコンテストと言うものは少ない。
あっても、決められた地域を撮った写真が対象になっていたりするのだ。
「ま、気長に探すしかないよ」
「映像はどうする?」
「取り込んで、曲に合わせていじってみる」
空になった缶をゴミバコに投げ入れて、司音が立ち上がる。
「じゃ、後でデータ送ってくれ」
「了解」
「またな」
その翌日、司音は来なかった。
僕と別れた後、司音はいなくなった。
夜遅くに司音のお母さんから電話が来て、一緒にいないかを訊かれた。
その後、思いつく限りの場所を探し回ったけど、司音はどこにもいなかった。
携帯に電話をしても、メールを送っても、反応は返って来ない。
司音のお父さんが警察に捜索願を出して、僕らは手詰まりになった。
2週間が経った土曜日、僕の携帯に着信があった。
【しおん】
ディスプレイに浮かんだ3文字を見て、大慌てで電話に出た。
「もしもし!」
「あ、き……」
「今どこにいるの!?」
司音の声が聞こえる前に、電話が切れた。
呆然とする僕の目の前で、今度はメールの着信があった。
送信者は、司音。
『ゆめのき』
たった4文字の本文。
でも、僕にはそれで充分だった。
僕が辿り着いたときには、もう日が暮れかけていた。
司音は、地面に仰向けになっている。
駆け寄ると、ぼんやりと僕の方を見た。
「大丈夫?」
「……う、ん」
司音の身体を担ぐようにして起こして、広い道に出る。
そこで、救急車を呼んだ。
あの後、司音は誘拐されていた。
いきなり車に押し込まれて、山奥に監禁されていたらしい。
特に暴力を振るわれることもなく、2週間経った今日になって、急に外へ出されたという。
現在地も分からないまま、ふらふらと歩いていたら辿り着いた。
『ゆめのき』にいた理由を、司音はそう語った。
『ゆめのき』は、僕と司音が名づけた。
電車とバスを乗り継いで見つけた、お気に入りの撮影場所だった。
――はらはらと散る木の葉を、紅い陽が照らす。
――白い吐息が、黄金色に染まる。
そんな秋の象徴とも言える画を、最初に撮った場所だった。
その場所で、この“秋”という季節に、司音は見つかった。
きっと、何かが導いてくれたのだろう。
僕の名前と彼の苗字が【あき】というのは、偶然じゃなかったのかもしれない。
comment
≫2時間で促成栽培しました……またもや、プロットなしの一発書き。
辻褄が合わないところを発見したら、僕(F)に通報してください。