『習作〜冬〜』




銀の風に、粉雪が舞う2月。
僕は独りになった。
そのとき僕は、まだ10歳だった。

父さんは、僕が小学生になる前に死んだと聞かされた。
そして、昨日。
母さんと兄さんが、交通事故で死んだ。
僕の、目の前で。
信号無視をして突っ込んできた、居眠り運転の大型トラックに、轢かれた。
即死。
苦しまずに済んだのが、せめてもの救いだったろうか――

「○○君、こっちにおいで」

なんて言ったんだ、今。
名前の部分が聞き取れない。
明らかに、僕にむけて言っているのに。

「○○君?」

――僕は、自分の名前が分からなくなった?



僕は、母さんの双子の弟の家に引き取られることになった。
悠治叔父さん。
母さんと同じ顔で、笑った顔がそっくり。

「これから、僕たちが君と一緒に暮らすことになったよ」

優しい、でも悲しみがいっぱいの笑顔と言葉だった。
言われたときは驚いたけど、今は嬉しいと思う。
悠治叔父さんは、知らない人じゃないから――少なくとも、母さんと同じ顔だから。



直接怪我をしていない僕にも、幾つか後遺症が出た。

まず1つ目。
僕は、記憶を無くしている。
生きていくうえで支障があるわけじゃない。
学校の勉強も覚えている。
ただ、人間関係に関する記憶だけが、すっぽり、抜け落ちている。
どんな人のことも、顔を除いて丸ごと全部。

そして2つ目。
僕は、自分の名前が分からない。
【雪哉】というらしい……教えてもらって覚えたけど、実感が無い。
呼ばれても、注意していないと気付かない。
苗字は【褐吹】、母さんは【悠樹】で兄さんは【咲哉】という名前だったらしい。

――災難続き、だ。


事故の後。

怒涛の如く、色んなことがあった。

苗字が【谷原】に変わって。
僕は、叔父さんの家の子になって。
今までの学校に通って気まずい雰囲気で過ごすよりも良いだろう、と話し合って決めて。
僕は叔父さんの家の近くにある学校に転校して。
修司兄ちゃん(従兄になる)とも、仲良くなって。
名前を呼ばれることにも、少しずつ慣れてきて。

今でも、母さんと兄さんの夢を見る。
2人とも、苦しそうな顔なんかしてなくて。
むしろ、僕が寂しそうにしていると怒るくらいだ。

【悠久の時を生きた樹のように大らかに】という意味の【悠樹】。
【桜の咲く姿は憂いを秘めた優しさ】という意味の【咲哉】。
そんな名前の由来を聞かされて以来、大きな樹を見ると母さんを、桜を見ると兄さんを思い出す。



僕がどう過ごしても、時間は流れる。
そして。
事故の記憶は少しずつ薄れて、消えていく。

でも、母さんと兄さんの記憶は写真みたいに残るんだろう。
徐々にフィルターが重なって、色は淡くなるかもしれないけれど。
僕が僕で在り続ける限り、消えてしまうことは無い。




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 久々に書いた……相変わらずプロット無しで、しかも日を空けて書いたので文体がバラバラ。
 脈絡の無い話でごめんなさい。